障害の有無にかかわらず、全ての国民が互いに人格と個性を尊重し合い、理解し合いながら共に生きていく共生社会の実現に向け、様々な福祉的な取り組みが全国的に展開されています。
また、今年の東京五輪・パラリンピック開催に向け、障害のある人のアート活動を支援する取り組みが各地で広がっています。

福祉もアートとは、一見違うものとして捉えがちですが地続きです。
福祉もアートも、多様な存在や価値観が存在する社会を作るためのもの。
どうすれば人々が幸せになるか、それを担保できる社会をどのように作っていくのか問い続けるプロセスそのものです。

ただ、そのアプローチに少し違いがあり、福祉は具体的な問題を解決しようとするのに対し、アートは社会に当たり前に存在する価値感や社会の構造に対し、問題定義や新たな価値観を投げかけます。
人の価値観や生き方がより多様化している現代だからこそ、「福祉」と「アート」、また様々な分野が横断する取り組みが必要です。

近年、障害がある人の作品や展覧会を目にする機会が多くなりました。
障害の有無を超えた共生社会を目指すにもかかわらず、その諸活動の中には、障害のある方の表現に傾斜した展覧会も少なくありません。

障害の有無、性別、国籍、年齢…。私たちはいろいろな境界線を引きます。
この境界線は自明のものであったり、アイデンティティに関わったり、差別を生んだり様々です。
さらに、この境界線は固定的ではなく、流動的です。
境界線は時代や場所によって変化する、揺らぎやすいものなのです。

わたしは、境界線そのものより、境界線の在り方、引く目的や方法に問題の有無があるように感じます。
・人々が幸せになる社会へと向かっているのか?
・共生社会に向かうのではなく、分断社会につながらないか?

このようなことを自問自答しながら、境界線を見直していかなけれななりません。
この境界線を見直す作業こそが、「福祉」と「アート」の大切な役割なのではないでしょうか。

成実憲一